アニガサキ第8話「しずく、モノクローム」のこと。
しずく「私ね。演じている時が、一番堂々としていられるの」
はじめに
こんにちは、ぶろっくです。
はい。ラブライブ!シリーズのオマージュが多いアニガサキなので、もしやとは思いましたけどね。
ともあれ、しずく回。
根っこの部分を探すのがちょっと難しい回ですが、しずくが何を求めていたのかを考えながら、見ていきましょう。
しず子がおかしい
元気ない?
かすみは、ある日の空き教室でしずくを見かけます。
演劇の自主練習。肩を落とすしずくの声に、ハリがない。
同好会でも、いつも通りに見えて、どこか妙な態度です。
他の人から見たら些細な違いでも、かすみにとっては大きな違和感。
璃奈のクラスで話を聞くと、どうやら校内新聞にも載った主演舞台を降板させられたらしい。
いつも頑張っているしずくが、降板? なんで!
でも、しずくの実力を認めているかすみ。かすみにできないことを、しずくはたくさんできるのです。
第6話より。かすみや璃奈にとって、しずくは基礎的な部分で一目置く存在です。
オーディションがあるなら、しずくならきっと主役を取り返すはず!
そのために、自分たちも応援したい。元気がないなら、元気付けてあげたい。
なんだか、ジョイポリスでの侑と愛を思い出しますね。
楽しいひとときを笑顔で表現できる璃奈にほっこり。
いっぱい遊んで、元気になったら、また挑戦すればいい。
自分が嫌い
しずくがなぜ“うじうじ”しているのか、かすみにはわかりません。
分からないけれど、気晴らしをして、笑顔になってくれればいい。
かすみの言葉に応えるように、しかし拒絶するように、笑顔を見せるしずく。
どうやら今回のしずくの“うじうじ”は、少しばかり深刻らしい。
しずく「大丈夫。心配しないで、私は平気だから。二人ともありがとう」
言葉では平気そうに聞こえるけれど、全然いつものしずくじゃない。
友人の思わぬ一面に、「どうしちゃったんだろう」と悩む。
しずくにとって大きな出来事(たぶん、主役降板と再オーディションのこと)があって、すごく落ち込んでいる。でもそんな時こそ、楽しいことを考えて吹き飛ばしたほうがいいのになあ。
そこで声をあげたのは、璃奈でした。
「しずくがどうにかなった」と思っていたかすみに対して、璃奈は「あれが元々の桜坂しずくだ」と語るのでした。
再オーディションはきっかけでしかなくて、“うじうじ”は元々しずく自身に根を張っていたようだ、ということに気づいたのです。ちょうど璃奈が「ずっとそれで失敗してきた」と言う表情の問題に似ていますね。*1
そんな璃奈が一歩を踏み出すには、「それでもいいんだよ」と思わせてくれる誰かが必要だった。
璃奈「私には、愛さんがいた。しずくちゃんには……」
この先に続く言葉が、「かすみちゃんがいる」だったのかはわかりません。
というか、かすみが飛び出していった時に驚いている表情から「私とかすみちゃん」だったのかな、と思うんです。
かすみ「私、行ってくる!」
でもかすみを見ていたら、やっぱり思ってしまうのです。
そこで「自分しかない」と思えるかすみなら、きっとしずくの心に何かを届けてくれる。
璃奈「ふぁいと!」
実は根底にある問題に一番近いところにいるのは璃奈なのですが*2、それに気づいていたのかはわかりません。
璃奈は、自分が感じていることを伝えられないことが苦痛だった。しずくの場合は自分の心の中にある「何か」が嫌で、そんな自分を忘れたくて、演技を始めたという。
(今のところ)最終的には外面の問題を解決することが肝要だった璃奈とは違い、しずくの場合は内面の問題を解消しなければいけません。そのためには、きっとかすみの不器用なエネルギーが必要なのです。
しず子のクセに
しずく「ごめんね、心配かけて。でも、私は本当に大丈夫」
ずっと前から、しずくには何か悩みがある。
しずくに向き合うために彼女の目を見ると、泣きはらした跡がありました。
ああ、やっぱり全然、しずくは大丈夫なんかじゃない。
かすみたちの気持ち全部、受け取ったフリをして、大丈夫なフリをして、でもそんなの、本当に無理っていうところまできたら、分かるんだ。
だって、大切な友達だから。
かすみ「私としず子の仲でしょう!」
5人の同好会の時からずっと一緒にやってきて、嫌なこともたくさんあったけど、一緒に乗り越えてきた。
新しい同好会になって、かすみには出来ないことを、しずくには分からないことを、お互いに教えあってきた。
ライバルだけど、仲間だから。誰よりも、桜坂しずくのことを認めている。
「自分をさらけ出せない」
犬を見たら、あんなに爽やかに笑うクセに
「私は! どっちにもなれないよ!!!」
私より、どんな練習も上手なクセに
「嫌われるのが、怖いよ」
そんなしょーもない理由で、立ち止まっていたなんて。
理想のヒロイン
演劇部部長「この役は、自分をさらけ出す感じで演じてほしかったの」
部長の注文は、こうでした。
役柄は歌手の少女。
歌を披露していた劇場での評判が芳しくなく、オーナーから「もう立たせることはできない」と宣告される。
けれど臆病な彼女は、「本当の自分の歌」を歌うことができていなかった。
少女は自分の心の声に耳を傾け、そして受け入れる。
自分を肯定してくれた人もいた。何より、自分の歌を歌いたい。
最後には、自分をさらけ出して歌うことを決意する。
そういう風に演じてほしい。
つまり、この芝居において要求されているのは「桜坂しずくをさらけ出す」ことではありません。
さらけ出した末に理想のヒロインになる、という役を演じる。
これが、今回のしずくに課された役柄でした。
けれど、しずくは今回の役を上手く演じることができません。
歌は歌える。声量もある。けれど、そこに感情が乗らない。
今回は、その感情がいかに観客に伝わるかが重要。
しずく「私、歌いたいの」
なぜ今度に限って、感情を表現できないのでしょう。
しずくとお芝居
そもそも幼い頃から、昔の映画や小説が「好きなもの」でした。
しずくはそのまま、理想を演じる姿に憧れて成長してきたのでしょう。
例えばエマは、
「日本のアイドルの動画を見て、心がポカポカってなった」
からスクールアイドルになった、と語っていました。
桜坂しずくの場合、きっと物語の向こうの誰かの姿に憧れたり、心を動かされたことがあるのでしょう。
だからお芝居をすること、そんな自分になることはネガティブではない。
むしろ、しずくにとって大切なことなのです。*3
降板とまで言われましたが、チャンスを要求。好きなことは、そう簡単には諦めきれません。
そんなプラスの思い出とは裏腹に、しずく自身が演技を始めたきっかけは「変なの、って顔」をされて、嫌われるのが怖かったから。
本当の自分を隠すと、周りから変な目で見られなくなった。
これなら嫌われない。気持ちが楽になった。
自分は誰から見ても可愛いおかしくない。堂々としていられる気がした。
演劇部でスクールアイドル。誰が見たって、堂々とした姿。
なりたい自分がいるから。苦しい思いから逃れたいから。
その両方があって、しずくはお芝居を続けています。
しずくが苦悩する今回の役。
「自分をさらけ出す」という表現が難しいのは、平たくいえば
その姿では、堂々としていられないからです。
しずくにとって演技を始めたきっかけは「変なの、って顔」をされないよう、自分を守るためでした。
他の表現はいい。けれど「自分をさらけ出す」というのは、しずくにとって「変なの、って顔」をされに行くのと同じこと。
だからその演技だけは、できない。
本当の私
かすみ「そんな顔で必死に隠そうとしないでよ!」
しずくとかすみはいつの間にか、お互いをごまかせない関係になっていました。
本当は誰にも見せたくない、しずくの本当の顔。
嘘をつき続けてきた、変な子。悪い子。
それを覆い隠すための笑顔はもう、かすみには通用しません。
嘘をつき続けてきた、変な子。悪い子。
この姿を、誰かに見られたくない。
嫌われるのが怖い。
演劇部では、自分をさらけ出さないといけない。
かすみや璃奈のように自分の気持ちを伝えないといけないなら、スクールアイドルだってできない。*4
そんなしずくの苦悩を、かすみは「あまっちょろい」と言い放ちます。
かすみ「嫌われるかもしれないから何だ!」
かすみは確かに、日頃から「一番可愛いのはかすみん」と公言している。
かすみは、しずくから見たらまさに「変な子」としか言いようがない。普通は言わない。煙たがられ、嫌われて然るべき、というような子です。
かすみ「しず子だって、かすみんのこと『可愛い』って言ってくれたことないよね! しず子はどう思ってるの!?」
しずく「ええっと……」
かすみ「可愛い?可愛くない!?」
しずく「か、可愛いんじゃないかな?」
この剣幕で迫られて可愛いも何もないけれど、とっさに口をついた言葉は、かすみを肯定するものでした。
そして、思い知らされる。
かすみ「ほら、言ってくれたじゃん」
かすみは、あんな曖昧な言葉でさえ、心の底から信じて、喜んでくれる。
自分の信じたことに、堂々としている姿が眩しい。
それに……
こんなに変な人*5だけれど、もうとっくに、嫌いになんてなれない。
かすみ「もしかしたら、しず子のこと好きじゃないっていう人もいるかもしれないけど」
「私は! 桜坂しずくのこと大好きだから!!!」
ずっとしずくを縛り付けていた「誰かに嫌われたらどうしよう」を、かすみの「私は大好きだから」が塗り替えていきました。
こんな嘘つきの桜坂しずくの、ダメなところも全部込みで、“大好き”を叩き付ける。
その姿は、正直ものすごくカッコよくて*6……
そして可愛い。
荒野の雨
涙に腫らした顔だって、堂々と笑えるのだ。
かくして、見事に主演の座を取り返したしずく。
その舞台のタイトルは「荒野の雨*7」
おそらく、元ネタはオードリー・ヘプバーン主演の舞台「マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)」ですね。*8
その舞台で、しずくは自分を苛み続けた影と、向き合うことになります。
「私、それでも歌いたいよ」
歌い手として舞台を追われたあの時、しずくは歌を諦めきれませんでした。
その姿を一番近くで見てきた彼女は、しずくが心の奥底で何を求めていたのか、そのことを知っていたのかもしれませんね*9。
しずく「これが私。逃れようのない、本当の私」
支えてくれる人がいる。
ぶつかってくれる人がいる。
雷鳴が胸に鳴り響いて、閉じ込めていた感情が溢れ出していく。
もう見失ったりしない、私だけの思いを。
この姿を見せたって、もう堂々としていられる。
嘘をつくためじゃない。
しずくはしずくでいるためにお芝居を続けるし、その度に新しい自分に出会うでしょう。
そのどれもが本当のしずくで、大切な一人の“桜坂しずく”なのです。*11
そんなしずくの姿が、荒野に染み渡る雨のように、誰かの心に響いたのなら……と願ってやみません。
今後、隠されてきた桜坂しずくの、どんな姿が見られるのか楽しみですね。
終わりに
これはもう正直に白状しますけど、第8話、いまいちピンと来なかったんです。
曲はいいし、シーンもいいけれど、かすみの何に心を動かされたのか、私には全くわからなかったからね。
でも、しずくの「堂々としていたい」という気持ち、そしてかすみはしずくの悩みをどこまで分かっているのかっていうこと、そのあたりを各々の視点でじっくり見ると、これはえらい感情のぶつかり合いだなあと、後から感じるものもありました。
あ、しずくの「演じる」と「自分として歌う」のバランスについては、あくまで私の解釈なので。その辺はね、ご勘弁を。
次週、いよいよ第9話。
もうね、一体どうなっちゃうんでしょうね……。
あと、彼方ちゃんにもっと出番を。
ぶろっく
アニメ画像の出典:記載がない場合、すべてラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第8話(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)より
*1:つまり、「昨日今日で始まった問題ではない」ということ。考えてみれば、璃奈のライブ前日に自宅まで赴く際、かすみの手を引いていたのはしずくでした。普段であればかすみが引っ張って行くことの多い関係ですが、この時に限ってはしずくの方が、より璃奈の求めているものを感じ取っていたのかもしれません。
*2:というのも、璃奈はしずくが「どうありたいから演技をする」のかを直接聞いているのです。つまり、第4話の「自分の気持ちを表現すること」、そして今回の「堂々としていること」です。
*3:スクスタでは、特に演じることを大切にする傾向が強い。逆にスクフェスのストーリーでは次第に「演じるのではなく、自分としてスクールアイドルになりたい」と思うようになっている。アニガサキで今後のしずくがどうなっていくのか、楽しみですね。
*4:第4話の時点で、しずくはその必要性には気がついています。そもそも、いい子の仮面をかすみに暴かれてしまったら、かすみの前では裸で踊らされているようなものです。正体を知っている相手の前で白々しく嘘をつき続けるのは滑稽という他ないし、それはしずくにとって最も苦しいことのはず。
*5:この言葉、何度も書いていると流石に意識せざるを得ないんですけど、ラブライブ!サンシャイン!!で梨子が千歌を指した言葉でもあるんですよね。
*6:何がカッコいいって言うとですね!この大一番で、ライバル視しつつ尊敬し大切に思っている優木せつ菜の必殺技“大好き”をトドメに使う展開がもうサイッコーに熱いんです!!! 分かりますか? 分かりますよね!?
*7:作中の英訳はおそらくSolitude Rainですが、元ネタを考慮すればThe rain in the plainと訳してもいいでしょう。
*8:とはいえ、私自身は詳しいことを知らないのですが。ヘプバーン演じるイライザは、淑女としてはおかしな、地方の訛り(“ai”を“エイ”ではなく“アイ”と発音してしまう)を矯正すべく“The rain in Spain stays mainly in the plain.(=スペインの雨は主に平野に降る)”と唱える。
最終閲覧:2020/11/24
*9:ここで言う「彼女」とは、演劇部部長のこと。第一話の時点でしずくがスクールアイドルへの未練があったことから、彼女がその気持ちを表現さえできれば適役であると見抜いていたことでしょう。なお、しずくが心の中で葛藤しているシーンと部長の演じているシーンとでは顔の輪郭、もっと分かりやすく言うと顔の長さが違うので、気になる方は見てみてください。さあ、アニメ冒頭のシーンはどちらでしょう?
*10:なぜこのカットが採用されたのかずっと悩んでいたのですが、おそらく「しずくが極めて堂々としているシーンだから」ですね。
*11:難しいことを言っているようですが、要は「好きなもんは好き!これが私の一番素敵な姿!」っていうことね。